遺産相続に強い法律のプロが解説!法定相続分の意味と注意点
[公開日]2016/11/04
「遺産相続」は、ほぼ全員がいつかは経験することです。しかし、洋の東西を問わず、また昔から現在も、何かとトラブルの元になっているのも事実です。そんな中、「最高裁で預貯金も『遺産分割』の対象となるような判断が出される見通し」との報道がありました。
これも今の時代を表す情報であることに間違いありません。相続は「民法」できちんと規定されているものですが、個々のケースによって事情が全く違ってくるため、色々な資料や本を読んでも、今一つ理解できない人が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、相続の基本である「法定相続分」について、詳しくご説明します。
法定相続分という言葉の意味をまずは簡単に整理しましょう。法定相続分とは「民法によって決められた相続する財産の割合」のことです。
ちなみに法定とは「法令によって決まっていること」、相続分とは「相続する財産の義務や権利を受け継ぐ割合のこと」を意味します。
以上のように、子(孫)がいなければ、父母(祖父母)が相続、父母(祖父母)がいなければ、兄弟姉妹が相続、と相続順位は変わってきますが、配偶者は常に相続人となります。
ただ、配偶者の法定相続分は、第一順位が「2分の1」ですが、順位が増すにつれて、「3分の2(第二順位)」、「4分の3(第三順位)」と割合が変わってくるので、注意が必要です。
「代襲相続」とは、被相続人が亡くなる前に、法律で相続人と規定されている人(法定相続人)がすでに亡くなっていた場合に、その子ども等に相続権が引き継がれることです。例えば、父親が亡くなった場合には、その子どもに相続権ありますが、もしすでに亡くなっていた時には、その子ども、つまり亡くなった父親の孫に相続権が移ることになります。
この場合の孫を「代襲相続人」と呼びます。法定相続人が、次のいずれかに該当する場合に、代襲相続が発生します。
➁の「欠格事由」とは、被相続人に対して相続人が生命侵害行為や遺言に対する妨害行為を行った場合に、相続人の資格を失うことです。
➂の「廃除」とは、相続人が被相続人に対して、虐待や非行等を行った場合に、法定相続人の資格を、被相続人の意思によって奪うことです。例えば、被相続人に対して虐待、侮辱、その他許しがたい非行等を行った場合には、被相続人や遺言執行者が家庭裁判所に対して「廃除の請求」を行うことができます。
例えば、父親が亡くなり、法定相続である子どもが相続を放棄した時には、その相続権はその子ども、つまり亡くなった被相続人の孫に移りません。これは、相続人が相続権を放棄すれば、その子どもが代襲する権利もなくなってしまうという考えから来ています。
家族構成別に、「法定相続分」を割合で説明します。○に×を付けた人が今回亡くなった人で、●がそれよりも前に既に亡くなっていた人を表します。
配偶者に1/2、子全体に1/2相続されます。ただし、子が一人既に亡くなっているので、その子(被相続人から見たら孫)にそのまま相続されます。
民法で定められた法定相続分ですが、いかなる場合であっても規定に従って計算して遺産を分割しなければならないという存在ではありません。
まず「遺言書」の存在があります。遺言書についても民法で細かに規定されています。「遺言」は被相続人の最後の意思表示ですから、できるだけ「遺言書」に書かれた内容に沿って、遺産相続しなければなりません。
ただし、民法では、「遺言は法定相続よりも優先する」といった効力についての明確な規定はありません。そのため、「法定相続人」が納得すれば、民法の規定どおりに分けた方がトラブルは少ないという意見もあります。
しかし、遺言は英語で「will」ということからもわかるように、相続人の「意思」である「(こうしてほしいという)気持ち」でもあります。できる限り、遺言書の内容を尊重することが、残された者の責務です。
例えば、「全財産を(相続人ではない)○○さんに遺贈する」と言った場合です。相続人ではない「全くの第三者」に全ての財産を譲るという内容について、相続人としては到底納得できるものではありません。
そこで、民法では「遺留分」というものを定めています。
これは、「相続人の期待を守る」ために、一定割合を相続人に補償する制度です。
「遺留分」を請求できる相続人は、以下の通りです。
なお、兄弟姉妹に遺留分はありません。
遺留分の割合は、次のとおりです。
しかし、最も新しい遺言書と言っても、数年前に作成された場合、相続が開始される時期、つまり遺言者が亡くなる時点で「相続人」「相続財産」が変動している可能性があります。
例えば、遺言書で「Aに家屋を相続する」と記載していても、相続開始時に既にAさんが故人になっていることがあるかもしれませんし、「○○の土地をBに相続させる」と記載していても、相続開始時にその時が既に処分され、相続財産から除外されていることもあるかもしれません。
このような場合には、遺言書に沿って相続財産を分割することは、難しくなってきます。そうなると、法定相続人で協議(話し合い)を行い、できるだけ全員が納得のいく形、法定相続分で分割する方法をベースにして、相続していくことになります。
例えば、夫が亡くなり、妻と2人の子が法定相続人だった場合、相続財産の1/2を妻が、1/4ずつを子が相続することになりますが、家や土地があると頭の痛い問題が持ち上がってきます。
妻しか住んでいない家・土地を「法定相続分」どおりに、共同名義(妻50%、子25%×2人)にして、相続しようとした場合、「固定資産税」の納税義務が、実際に住んでいない子にも課せられることになります。このような状況でも、子が納得してくれればいいのですが、お金(税金)も関係してきますから、通常は「共同名義」を嫌がることになります。
ただ、そのような場合でも、「共同名義」にした上で、「固定資産税」の支払いは妻が全て負担する等の条件を出すことで、解決を図るしかありません。そうしないと、不動産を単独で相続した場合、他の「相続財産」の分割方法にも影響してきます。
例えば、不動産が3,000万円で、他に預貯金が1,000万円あった場合、相続財産の総額は4,000万円になり、法定相続分で分ければ、妻が2,000万円、子が1,000万円ずつになります。もし、妻が3,000万円の不動産を単独で相続した場合、子は現金を500万円ずつ相続することになります。こうなった場合、妻が子に500万円を渡すことでバランスはとれますが、妻にとってはかなりの負担になることは、十分に予想されます。
しかし、実際の「相続」の場面では、他の分けられない財産(不動産等)とのバランスを考えて、相続人間の話し合いで、「法定相続分」にとらわれず、臨機応変に分割した方が、現実に即していることは明らかです。相続人全員が納得すれば、相続方法や割合は自由にできることが、改めて最高裁で確認されることになりそうです。
相続財産の「リスト」ができたら、法定相続の金額になるように、分割の方法を何通りか考えて、相続人全員に提示し、検討してもらいます。ただ、相続人の一人が分割方法を考えると、他の相続人の理解を得られない場合が多いので、ここも専門家に任せた方がいいでしょう。
仮に、話し合いが紛糾し、「分割協議」がまとまらない場合には、家庭裁判所に協議を行うことになります。しかしその場合、時間や費用がかかってしまいますので、できるだけ相続人の協議だけでまとめるように、専門家の知恵を借りながら話し合っていくことが大切です。
現在、「相続」に関する法の改正が、法務省の「法制審議会」で議論されています。まだ議論の段階ですから、最終的にどのように改正されるかは、はっきりしていません。
ただし、「何分の何」という単純な割合ではなく、「配偶者の貢献に応じた遺産分割」を検討しているのです。前回の改正時に比べると、社会はますます複雑化しているため、法律の条文という画一化した文字で規定することは、なかなか難しいようです。今後も、「相続」に関する法律がどのような改正に流れになって行くのか、注視する必要があります。
「相続財産」は、「法定相続分」で分割することが大前提です。
しかし、被相続人が「遺言書」を残していた場合には、「遺言書」の内容に沿った遺産分割をしなければなりません。それが、遺言者の意思を尊重することになるからです。しかし、「遺言書」の内容が全て現実に即しているとは限らず、相続財産の漏れや相続人が変わっている可能性もあります。
そのような場合には、相続人全員で十分に話し合い、最終的に合意して「遺産分割協議書」を作成することになります。「相続」は私人間で取決めを行う「民事」ですから、最後には相続人同士の信頼関係で、最も納得できる結論を導いていくことが、最も重要です。
これも今の時代を表す情報であることに間違いありません。相続は「民法」できちんと規定されているものですが、個々のケースによって事情が全く違ってくるため、色々な資料や本を読んでも、今一つ理解できない人が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、相続の基本である「法定相続分」について、詳しくご説明します。
こんにちは!「アンチエイジングの神様」管理人の安藤美和子です。いつか訪れる「遺産相続」。その中でも基本の用語である「法定相続分」について、相続に関する業務を行う現役の行政書士さんに解説してもらいました。
法定相続分は民法によって規定された相続する割合
法定相続分という言葉の意味をまずは簡単に整理しましょう。法定相続分とは「民法によって決められた相続する財産の割合」のことです。
ちなみに法定とは「法令によって決まっていること」、相続分とは「相続する財産の義務や権利を受け継ぐ割合のこと」を意味します。
中学生の頃に公民の授業で習ったような気がするけど、当時はイマイチ実感が持てなかったなあ。
相続人の順位と法定相続分
民法では、亡くなった人(「被相続人」と言います)との関係によって、相続の順位とその際に相続される財産の割合が、次のように決められています。第一順位の相続人とその相続分
被相続人に子がいる時は、子が第一順位の相続人です。配偶者がいる場合には、その配偶者も相続します。もし子が一人もいない場合は、孫が代わりに相続します。
法律で決められた相続割合(法定相続分)は、配偶者が2分の1、残りの2分の1を子(孫)が相続します。もし、子(孫)2人以上がいる場合、2分の1を子(孫)の人数で割った分を各自が相続します。
法律で決められた相続割合(法定相続分)は、配偶者が2分の1、残りの2分の1を子(孫)が相続します。もし、子(孫)2人以上がいる場合、2分の1を子(孫)の人数で割った分を各自が相続します。
養子や非嫡出子の法定相続分の差は民法の条文改正によってなくなった
以前、非嫡出子(法律上結婚していない男女の間に生まれた子)の相続分は、嫡出子(法律上結婚している男女の間に生まれた子)の半分と決められていました。しかしこの規定が、「法の下の平等」に違反するという理由で民法が改正され、2013年(平成25年)12月に、非嫡出子と嫡出子は同じ相続分になりました。なお、夫婦が養子縁組をした子も、夫婦の間に実際に生まれた子(実子)も相続分は同じです。第二順位の相続人とその相続分
子(孫)いない場合、被相続人の直系尊属が相続します。配偶者がいれば、その配偶者も相続します。直系尊属は、被相続人を中心に、世代が上に直線的に連なる血縁者のことです。父母、祖父母が、それに当たります。
法定相続分は、配偶者が3分の2、残りの3分の1を父母、祖父母(父母がいない場合)が相続します。直系尊属が2人以上いる場合、3分の1を人数で割った分を各自が相続します。
法定相続分は、配偶者が3分の2、残りの3分の1を父母、祖父母(父母がいない場合)が相続します。直系尊属が2人以上いる場合、3分の1を人数で割った分を各自が相続します。
第三順位の相続人とその相続分
子(孫)、父母(祖父母)がいない場合、被相続人の兄弟姉妹が相続します。配偶者がいれば、その配偶者も相続します。
法定相続分は、配偶者が4分の3、残りの4分の1を兄弟姉妹が相続します。兄弟姉妹が2人以上いる場合、4分の1を人数で割った分を各自が相続します。
法定相続分は、配偶者が4分の3、残りの4分の1を兄弟姉妹が相続します。兄弟姉妹が2人以上いる場合、4分の1を人数で割った分を各自が相続します。
以上のように、子(孫)がいなければ、父母(祖父母)が相続、父母(祖父母)がいなければ、兄弟姉妹が相続、と相続順位は変わってきますが、配偶者は常に相続人となります。
ただ、配偶者の法定相続分は、第一順位が「2分の1」ですが、順位が増すにつれて、「3分の2(第二順位)」、「4分の3(第三順位)」と割合が変わってくるので、注意が必要です。
相続っていうと親から子みたいなパターンしかないと思い込んでたわ!
代襲相続とは「相続権が引き継がれること」
この場合の孫を「代襲相続人」と呼びます。法定相続人が、次のいずれかに該当する場合に、代襲相続が発生します。
➀相続開始前にすでに死亡していること
➁相続欠格事由(けっかくじゆう)に該当していること
➂法定相続人の廃除(はいじょ)が確定していること
➀は上記の法定相続人がすでになくなっているケースのとおりです。➁相続欠格事由(けっかくじゆう)に該当していること
➂法定相続人の廃除(はいじょ)が確定していること
➁の「欠格事由」とは、被相続人に対して相続人が生命侵害行為や遺言に対する妨害行為を行った場合に、相続人の資格を失うことです。
➂の「廃除」とは、相続人が被相続人に対して、虐待や非行等を行った場合に、法定相続人の資格を、被相続人の意思によって奪うことです。例えば、被相続人に対して虐待、侮辱、その他許しがたい非行等を行った場合には、被相続人や遺言執行者が家庭裁判所に対して「廃除の請求」を行うことができます。
代襲相続の注意点
「代襲相続」で注意してほしいのは、「相続放棄」の場合、代襲相続の権利は発生しないということです。例えば、父親が亡くなり、法定相続である子どもが相続を放棄した時には、その相続権はその子ども、つまり亡くなった被相続人の孫に移りません。これは、相続人が相続権を放棄すれば、その子どもが代襲する権利もなくなってしまうという考えから来ています。
相続を放棄したっていうことも引き継がれるんだね!
【図解解説】家族構成別:相続財産の計算法
家族構成別に、「法定相続分」を割合で説明します。○に×を付けた人が今回亡くなった人で、●がそれよりも前に既に亡くなっていた人を表します。
配偶者と兄弟間の法定相続分の割合
・第一順位の相続人と相続分
→子が二人いる場合
配偶者に1/2、子全体に1/2相続されます。子が二人なので、1/2の半分である1/4ずつが相続されます。→子が二人いる場合
孫にも相続されるケース
・第一順位の相続人と相続分
→子の一人が既に亡くなっていて、孫が一人いる場合
→子の一人が既に亡くなっていて、孫が一人いる場合
配偶者に1/2、子全体に1/2相続されます。ただし、子が一人既に亡くなっているので、その子(被相続人から見たら孫)にそのまま相続されます。
親への遺産相続が生じるケース
・第二順位の相続人と相続分
→両親が存命で、配偶者のみの家族構成
子は孫がいないので、配偶者に2/3、被相続人の親全体に1/3相続されます。親が二人とも存命なので、1/3の半分である1/6ずつが相続されます。
→両親が存命で、配偶者のみの家族構成
子は孫がいないので、配偶者に2/3、被相続人の親全体に1/3相続されます。親が二人とも存命なので、1/3の半分である1/6ずつが相続されます。
兄弟への遺産相続があるケース
・第二順位の相続人と相続分
子は孫、被相続の親がいないので、配偶者に3/4、被相続人の兄弟全体に1/4相続されます。兄弟が二人とも存命なので、1/4の半分である1/8ずつが相続されます。
子は孫、被相続の親がいないので、配偶者に3/4、被相続人の兄弟全体に1/4相続されます。兄弟が二人とも存命なので、1/4の半分である1/8ずつが相続されます。
後ほど説明がありますが、配偶者の法定相続分については盛んに議論されています。これからのニュースには要注目ですね。
遺言書と法定相続分の効力
民法で定められた法定相続分ですが、いかなる場合であっても規定に従って計算して遺産を分割しなければならないという存在ではありません。
遺言書の存在と法定相続分との関係
今までご説明したように、民法ではかなり細かに、法定相続分について規定されています。人が亡くなり、法定相続人を調査して、その人と亡くなった人(被相続人)との関係によって、相続財産を規定どおりに、機械的に分ければ、それで万事済みそうですが、実際にはそう簡単には行きません。まず「遺言書」の存在があります。遺言書についても民法で細かに規定されています。「遺言」は被相続人の最後の意思表示ですから、できるだけ「遺言書」に書かれた内容に沿って、遺産相続しなければなりません。
ただし、民法では、「遺言は法定相続よりも優先する」といった効力についての明確な規定はありません。そのため、「法定相続人」が納得すれば、民法の規定どおりに分けた方がトラブルは少ないという意見もあります。
しかし、遺言は英語で「will」ということからもわかるように、相続人の「意思」である「(こうしてほしいという)気持ち」でもあります。できる限り、遺言書の内容を尊重することが、残された者の責務です。
遺言書の内容と法定相続分との関係
そうは言っても、遺言書の内容が、相続人全員の理解を得られないようなものであった場合、被相続人の意思をあくまでも尊重するということは難しい場合があります。例えば、「全財産を(相続人ではない)○○さんに遺贈する」と言った場合です。相続人ではない「全くの第三者」に全ての財産を譲るという内容について、相続人としては到底納得できるものではありません。
そこで、民法では「遺留分」というものを定めています。
これは、「相続人の期待を守る」ために、一定割合を相続人に補償する制度です。
遺言も尊重するのは大事だけど、残された人の権利も守られる仕組みがあるのね。
「遺留分」を請求できる相続人は、以下の通りです。
・配偶者
・直系卑属(被相続人の子、孫、曾孫など)、
・直系尊属(被相続人の父母、祖父母、曾祖母など)
・直系尊属の代襲者
・直系卑属(被相続人の子、孫、曾孫など)、
・直系尊属(被相続人の父母、祖父母、曾祖母など)
・直系尊属の代襲者
なお、兄弟姉妹に遺留分はありません。
遺留分の割合は、次のとおりです。
遺言書の作成時期と法定相続分との関係
もう一つ重要なことは、遺言書の作成時期です。遺言書は、遺言者の自由意思で作成されますから、いつ作成しても構いませんし、過去に作成してもまた新しく作成し直しても、構いません。複数の遺言書が存在する場合には、最も作成年月日が新しいものが有効となり、それ以外は無効です。しかし、最も新しい遺言書と言っても、数年前に作成された場合、相続が開始される時期、つまり遺言者が亡くなる時点で「相続人」「相続財産」が変動している可能性があります。
例えば、遺言書で「Aに家屋を相続する」と記載していても、相続開始時に既にAさんが故人になっていることがあるかもしれませんし、「○○の土地をBに相続させる」と記載していても、相続開始時にその時が既に処分され、相続財産から除外されていることもあるかもしれません。
このような場合には、遺言書に沿って相続財産を分割することは、難しくなってきます。そうなると、法定相続人で協議(話し合い)を行い、できるだけ全員が納得のいく形、法定相続分で分割する方法をベースにして、相続していくことになります。
遺言の気持ちを汲み取りながら、話し合いで納得のいく結論を出すことが大事だね。
遺産分割でのトラブルを防ぐ方法
不動産の遺産分割は登記・相続税も考慮
相続財産が現金や預貯金だけの場合は、「法定相続分」で分けることが可能ですから、トラブルは比較的少ないのですが、不動産(家や土地)がある場合、分割割合や方法でもめることがあります。例えば、夫が亡くなり、妻と2人の子が法定相続人だった場合、相続財産の1/2を妻が、1/4ずつを子が相続することになりますが、家や土地があると頭の痛い問題が持ち上がってきます。
妻しか住んでいない家・土地を「法定相続分」どおりに、共同名義(妻50%、子25%×2人)にして、相続しようとした場合、「固定資産税」の納税義務が、実際に住んでいない子にも課せられることになります。このような状況でも、子が納得してくれればいいのですが、お金(税金)も関係してきますから、通常は「共同名義」を嫌がることになります。
ただ、そのような場合でも、「共同名義」にした上で、「固定資産税」の支払いは妻が全て負担する等の条件を出すことで、解決を図るしかありません。そうしないと、不動産を単独で相続した場合、他の「相続財産」の分割方法にも影響してきます。
例えば、不動産が3,000万円で、他に預貯金が1,000万円あった場合、相続財産の総額は4,000万円になり、法定相続分で分ければ、妻が2,000万円、子が1,000万円ずつになります。もし、妻が3,000万円の不動産を単独で相続した場合、子は現金を500万円ずつ相続することになります。こうなった場合、妻が子に500万円を渡すことでバランスはとれますが、妻にとってはかなりの負担になることは、十分に予想されます。
預貯金の分割は他の資産とのバランスに応じて分割
冒頭でご案内した「最高裁で預貯金も『遺産分割』の対象となるような判断が出される見通し」に関係してきますが、今までの判例では、相続財産の「預貯金」は、「法定相続」どおりに各相続人が受け取るものとされてきました。これは、1954年の最高裁判決で、「預貯金のような分割できる財産は、自動で『法定相続分』を受け取れる」として、「預貯金」は原則として「法定」どおりに以外に分けられないとされてきたのです。しかし、実際の「相続」の場面では、他の分けられない財産(不動産等)とのバランスを考えて、相続人間の話し合いで、「法定相続分」にとらわれず、臨機応変に分割した方が、現実に即していることは明らかです。相続人全員が納得すれば、相続方法や割合は自由にできることが、改めて最高裁で確認されることになりそうです。
金融資産の分割は基準を設定する
株式、公債、社債等の現金以外の「金融資産」については、通常「相続日」(被相続人が亡くなった日)を基準にした「市場価格」等を算定します。その金額で「相続財産」として評価することを相続人全員が納得しておく必要があります。そうしないと、価格が変動する「金融資産」の相続は、トラブルの元になるからです。兄弟間、実子・養子間は特に注意!不公平感を生まないためのポイント
相続が始まったら(被相続人が亡くなったら)、全ての相続財産を「リストアップ」する必要があります。一つでも漏れがあると、後で再度その財産を分けるための話し合いが必要になります。財産の額が大きく、財産の種類が多岐に渡るようであれば、相続の専門家(弁護士、司法書士、行政書士、税理士等)に依頼する方法もあります。相続財産の「リスト」ができたら、法定相続の金額になるように、分割の方法を何通りか考えて、相続人全員に提示し、検討してもらいます。ただ、相続人の一人が分割方法を考えると、他の相続人の理解を得られない場合が多いので、ここも専門家に任せた方がいいでしょう。
分割方法の同意→遺産分割協議書の作成
そして、相続人全員が納得する分割方法が決まったら、「遺産分割協議書」を作成し、全員が署名捺印します。この際、たとえ全く財産を相続しない相続人でも、その人の署名捺印が必要です。捺印は実印で、発行から3ヶ月以内の「印鑑証明書」が必要です。仮に、話し合いが紛糾し、「分割協議」がまとまらない場合には、家庭裁判所に協議を行うことになります。しかしその場合、時間や費用がかかってしまいますので、できるだけ相続人の協議だけでまとめるように、専門家の知恵を借りながら話し合っていくことが大切です。
言った言わないのトラブルを防ぐためにも、話し合いで出た結論はきちんと書類に残すのが絶対必要ね!
相続に関する民法改正の動き
現在、「相続」に関する法の改正が、法務省の「法制審議会」で議論されています。まだ議論の段階ですから、最終的にどのように改正されるかは、はっきりしていません。
配偶者の法定相続分見直しの流れには要注目
それでも「遺産分割」に関して検討されている項目で気になるのは、「配偶者の相続分の見直し」です。現在、配偶者の法定相続分は、1/2ですが、これは1980年(昭和55年)の改正で定められたもので、それ以前は1/3でした。その後35年以上改正はされていませんが、「法制審議会」では、配偶者の相続分を見直そうという動きがあります。ただし、「何分の何」という単純な割合ではなく、「配偶者の貢献に応じた遺産分割」を検討しているのです。前回の改正時に比べると、社会はますます複雑化しているため、法律の条文という画一化した文字で規定することは、なかなか難しいようです。今後も、「相続」に関する法律がどのような改正に流れになって行くのか、注視する必要があります。
まとめ:お互いの信頼関係を築きつつ結論を導く重要性
「相続財産」は、「法定相続分」で分割することが大前提です。
しかし、被相続人が「遺言書」を残していた場合には、「遺言書」の内容に沿った遺産分割をしなければなりません。それが、遺言者の意思を尊重することになるからです。しかし、「遺言書」の内容が全て現実に即しているとは限らず、相続財産の漏れや相続人が変わっている可能性もあります。
そのような場合には、相続人全員で十分に話し合い、最終的に合意して「遺産分割協議書」を作成することになります。「相続」は私人間で取決めを行う「民事」ですから、最後には相続人同士の信頼関係で、最も納得できる結論を導いていくことが、最も重要です。