職場のセクハラ被害を実名で告発するのは危険!法律のプロが#MeTooを解説

[公開日]2018/01/05[更新日]2018/01/11

被害者 加害者 弁護士回答
SNS上でハッシュタグ「#MeToo」でセクハラ被害を告発する動きが広がっていますね。

日本でもブロガー・作家のはあちゅうさんが以前勤めていた会社の先輩クリエイターによるセクハラ被害を実名で告発し、告発された先輩クリエイターの男性も事実関係の一部を認めて謝罪するという一件がありました。

これをきっかけに「自分も職場で受けているセクハラ被害を告発したい」と考える人もいるのではないでしょうか。

しかし、SNSで加害者の実名を公表して告発する場合にはリスクが伴います。

加害者を制裁するはずが、かえって自分の立場を追い込むことにならないよう、セクハラ被害を実名で告発するリスクや「#MeToo」に代わる手段を確認しておきましょう。

こんにちは!「アンチエイジングの神様」管理人の安藤美和子です。この記事では話題になっている「#MeToo」などによる実名でのセクハラ告発について、法律の専門家である行政書士さんに解説してもらっています。



SNSに実名でセクハラ被害を告発すると名誉毀損のリスクあり


被害者 弁護士回答 童貞
セクハラ行為は当然、許されるものではありません。

しかし、セクハラの被害が事実であったからといっても、被害者がSNSに実名とともに投稿して、私的に制裁することにはリスクがあります。

まず考えられるのは、セクハラの実名告発が名誉毀損罪にあたるリスクです。

セクハラ被害の実名告発は名誉毀損になるリスクあり

名誉毀損について知るために、刑法230条をみてみましょう。

第230条第1項
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」

自分のSNS投稿が「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」とされる行為である場合、名誉毀損罪にあたるおそれがあります。

名誉毀損のポイントを3つに分けて見ていきましょう。

SNSで拡散できる状況は「公然」にあたる
条文の中の「公然と」とは、不特定または多数の人が認識できる状態のことです。

たとえ特定の少数の人に向けた投稿でも、さらなる拡散が予想できる場合は「公然」にあたります。

したがって、Twitterなどの拡散は無限ですから「公然と」の要件を満たすと考えられます。

ウソの悪評を流すこと=名誉毀損ではない
この条文でいう「事実」とは、人の社会的評価を下げる内容のものを指します。

よく誤解されているのですが「嘘の情報を流すこと」が名誉毀損ではありません。

たとえ、発信した情報が真実であっても、人の社会的評価が下がる内容を示せば、「事実を摘示する」という要件にあたると考えられます。

セクハラは「人の名誉を毀損」する行為
この条文で言う「名誉」とは、人の社会的評価のことです。

一般的に考えて、「あの人にセクハラ被害を受けている」という発言は、人の社会的評価に影響するといえるでしょう。

したがって、実名でのセクハラ被害の告発は「人の名誉を毀損」する行為であると考えられます。

「#MeToo」での実名告発が名誉毀損にあたらない場合はどんな時?

「セクハラ被害の告発は社会的意義があるのに、名誉毀損にあたるなんておかしい」と感じる方も多いのではないでしょうか。

そこで、刑法230条の2では、一定の条件のもとで救済策が用意されています。

刑法230条の2第1項
「前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。」

この条文は、本来なら名誉毀損にあたる行為でも公共性・公益性・真実性のすべてを充たすときは罰しないという意味です。

公共性・・・摘示された事実が公共の利害に関するものであったこと
公益性・・・摘示の目的が専ら公益を図ることにあったこと
真実性・・・事実が真実であることの証明があったこと

しかし、現実問題として無名の一個人がセクハラ被害を公表することに、公共性や公益性が認められるかどうかは疑問です。

冒頭で挙げたハリウッドのプロデューサーの事例やはあちゅうさんの事例は、セクハラ被害を告発した側と告発された側がともに社会的知名度と影響力のある人物であった、という点で違いがあります。

また、セクハラ被害が真実であることを証明するのが難しい場合も多いでしょう。

今のところ、「#MeToo」の投稿者が名誉毀損で告訴されたり、起訴されたという報道は見当たりませんが、名誉毀損罪に該当するリスクを考えると、セクハラ被害をSNSで実名告発するのは慎重に考えるべきです。

「#MeToo」のセクハラ告発が名誉毀損になるケースとならないケースを比較

それでは、具体的な投稿例をもとに、それぞれの投稿が名誉毀損にあたるかどうかを解説していきます。

セクハラ加害者の実名を挙げた場合
瀬久原部長に性的関係を強要され、断ったら無視されるようになった。 #MeToo
このように加害者の実名を挙げている場合は、名誉毀損罪の要件である「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」にあたると考えられます。

セクハラ加害者の実名を挙げていない場合
私の部署の部長はいつも女性の脚や胸を触るので、会社にいくのが苦痛だ。 #MeToo
加害者の実名は書かれていませんが、その部長がどの人物なのか簡単に特定できる場合は、名誉毀損罪の要件を満たす可能性があります。

セクハラ加害者を一人に特定していない場合
うちの会社の男連中からセクハラ被害を受け続けている。会社もセクハラ被害を黙認している。 #MeToo
加害者の主語が「男連中」ですので、この投稿では特定の個人の名誉を毀損したことにはなりません。

ただしこの投稿内容だと、投稿者が勤務している会社の社会的評価を害するので、会社名が容易に判明する場合は会社に対する名誉毀損の被害が問題になる可能性があります。

加害者を特定しているがセクハラ被害だと記さない場合
瀬久原部長に不愉快な行為をされた。会社に行くのが苦痛だ。 #MeToo
瀬久原部長にセクハラ被害を受けたのか、あるいは瀬久原部長になにか叱責を受けたのか、被害の内容がよく分からりません。

受けたセクハラ被害について言及しないこの投稿が瀬久原部長の社会的評価を害する、といえるかどうかは微妙なところです。

ただ、このような投稿では「セクハラ被害に声を上げる」という「#Metoo」の趣旨から離れてしまうので、投稿自体にあまり意味がないかもしれません。

「#MeToo」で職場のセクハラを告発する際の注意点


被害者 弁護士回答 批判
「#MeToo」でセクハラを告発する際は以下の点に注意して投稿するようにするとよいでしょう。

実名や個人が特定できる記載は控える
個人が特定できてしまうと名誉毀損のリスクが高まるので、加害者の実名を公表することは避けましょう。

確かに著名人によるセクハラ被害の実名告発は公共性や公益性が高いために、社会的意義のある行動だと捉えられやすい傾向にあります。

しかし、一般人にとっては名誉毀損になるリスクの割に効果が低いと考えられるため、「#MeToo」の流れに乗ってSNSなどでセクハラ被害を実名で告発するような投稿を行うことはおすすめできません。

そもそも「#MeToo」とは実名で告発することではなく、セクハラの被害者が「セクハラ被害を受けている」と声をあげ、被害の深刻さを伝えることが目的の中心です。
《例》
会社の上司から性的関係を強要され、断ったら無視されるようになった経験があります。 #MeToo

客観的な事実のみを記載すること
投稿者の主観的な加害者への評価や想いだけの内容で投稿してしまうと、加害者が何をしたのかがわからず、被害の深刻さが伝わらなくなってしまいます。

実際に加害者にされた行動の内容、実際に加害者からされた発言の内容を記載した方が、共感が得やすいでしょう。

《被害の深刻さが伝わりにくい例》
会社に本当にひどいセクハラ上司がいるのですが、顔を見るのも嫌で会社に行くのが苦痛です。 #MeToo

《被害の深刻さが伝わりやすい例》
会社にいつも私のことを「ブス」と呼ぶ上司がいます。顔を見るのも嫌で会社に行くのが苦痛です。 #MeToo

職場のセクハラはSNSでなく会社に告発するのがベスト


職場のセクハラ被害は会社と相談して解決を目指す

職場のセクハラ被害を一般人がSNSで告発しても、解決へとつなげることは難しく、「名誉毀損」の事実で逆に自分が追い詰められてしまうことにもなりかねせん。

職場のセクハラ被害は、被害者と加害者だけの問題ではなく「職場の労働環境の問題」です。

会社は、労働者に対して、安心して労働に専念できる環境(たとえばセクハラ等のない職場環境)を整備する義務を負っているのです。職場のセクハラは被害者だけでなく、会社の問題でもあるので、まずは会社に相談して対応を求めましょう。

まずは会社に相談窓口がないか確認
今では、従業員向けにセクハラや不正行為の相談窓口を設置している会社も多くなってきました。

相談窓口の名称は「内部通報窓口」や「ヘルプライン」などさまざまですが、自分の勤める会社にそのような相談窓口がないか確認してみましょう。

また、専門の相談窓口がない場合でも、人事部がセクハラ被害の相談を受け付けている会社もあります。

会社に相談窓口がない場合は上司に相談
セクハラ加害者よりも上位の職位にある信頼できる上司に相談してみましょう。

職位については、必ずしもセクハラ加害者の直系の上司である必要はありません。

問題はその上司が信頼できるかどうかですが、面倒なことから逃げないタイプ、誠実に人の話を聞いてくれるタイプの上司を選定する必要があります。

もし、条件を満たす上司と直接のつながりがなければ、社内でパイプを持つ人に相談してみましょう。

会社の規則に沿ってセクハラ被害を告発すれば会社が守ってくれる
セクハラ行為による被害を公表した結果、加害者からの報復に不安を感じる方も多いのではないでしょうか。

SNSに実名で投稿した場合には、名誉毀損にあたるとして刑事告訴されたり、投稿によって精神的苦痛を受けたという理由で損害賠償を請求される可能性もあります。

セクハラ加害者の人格次第ですので、報復の可能性がないとは言い切れません。

しかし、会社はセクハラ被害の申し出があった場合、事実関係を確認して、加害者にはしかるべき処分、被害者には適切な配慮をする義務があります。

会社のルールに従ってセクハラ被害を告発して、加害者からの突っ込みどころをなくすことが最大の防御です。

告発時に事実を認めさせる!セクハラの証拠を残す方法


会社にしかるべき対応を求めるにしても、セクハラの加害者に対して裁判を起こすにしても、「本当にそのような事実があったのか」という点が問題となります。

証拠を残しておく方法を紹介します。

メールやLINE、着信履歴を残しておく
たとえば、メール、LINEなどが送られてきている場合には、それを残しておく必要があります。

また、電話が頻繁にかかってくる場合には、着信履歴が消えないうちにスクリーンショットで画像を保存しておくことも有効です。

セクハラにあたる発言を録音する
会話はもともとあなたに向けて発せられた言葉ですから、セクハラ発言を録音したからといって違法とはいえません。(これに対し、「盗聴」は誰かに聞かれていることを想定していないので違法です。)

わざわざボイスレコーダーを買わなくても、スマートフォン向けの無料アプリなどもあるので、セクハラ発言を簡単に録音できます。

第三者の証言を得る
職場で公然とセクハラ発言をしている場合などには、ほかの職場の同僚などからセクハラ被害の証言を得ることも有効です。

セクハラが原因で通院した際に医師の診断書を得る
セクハラ被害によって心身に支障を来した場合には証拠となり得ます。

何らかのセクハラ被害によって、病院の診察を受けた場合は診断書をもらうようにしておきましょう。

日記をつける
セクハラ被害のみを書きまとめたメモでは、後付けで作成された疑いが残るため、証拠として弱いといえるでしょう。

毎日継続して日記をつけていて、その中にセクハラ被害の記述を含んでいる場合には、後付けで作成されたとは考えにくいので信用力は高くなります。

会社がセクハラを黙認する姿勢の場合は都道府県労働局に相談する

すべての会社は、社内のセクハラ被害を防止する義務を負っていますが、企業によって、まだまだセクハラ被害に対する温度差があるのが実情といえます。

実際に「会社にセクハラ被害を相談してもまったく動いてくれず、何ら改善が見られなかった」というケースも、残念ですが存在します。

あなたが会社にセクハラ被害を相談しても、会社が解決に向けて動いてくれない場合には、都道府県労働局「雇用均等室」への相談をおすすめします。

厚生労働省の機関ですべての都道府県に設置されており、セクハラ被害に関して事業主に対する行政指導などを行ってくれることもあります。

告発して認められるラインはどこから?職場のセクハラとは


加害者 弁護士回答 パワハラ

職場のセクハラは厚生労働省が定めた定義がある

男女雇用機会均等法に基づき、厚生労働省が制定したガイドラインによれば、セクハラは次のように定義されています。

職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けること(対価型)と、当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること(環境型)

これでは少々分かりづらいので、4つの要素に分解して考えてみましょう。

この4つの要素を満たす場合、会社が対応しなければならないセクハラにあたると判断される可能性があります。

  1. 職場で起きている
  2. 労働者の意に反している
  3. 性的な言動(発言、行動)を行っている
  4. 労働者に被害が発生している

どこからがセクハラ?性的な言動(発言・行動)とは

厚生労働省の事業者向けガイドラインによれば、性的な言動(発言、行動)の例として次のような行為が挙げられています。

性的な発言の例
性的な事実関係をたずねること
性的な内容の情報(噂)を流布すること
性的な冗談やからかい
食事やデートへの執拗な誘い
個人的な性的体験談を話すこと

性的な行動の例
性的な関係を強要すること
必要なく身体へ接触すること
わいせつ図画を配布・掲示すること
強制わいせつ行為、強姦

これらの行為によって「労働者に被害が生じた」と認められた場合はセクハラに該当します。

たとえば、「上司がしつこく食事に誘う」は、性的な内容の発言に含まれますが、誘われた側がまったく意に介さず一蹴できれば、被害が生じていると認められず、セクハラとは言えないのです。

一方で、毎回食事に誘われるのが苦痛で仕方なく、職場に行くのも嫌になったという被害が生じた場合はセクハラにあたると言えるでしょう。

このように、同じ性的な言動でも相手がどう感じるか、どのような影響が生じたかによって、セクハラの判断が変わるという点が重要なポイントです。

ガイドラインの主語には男性・女性の区別はない
「男性が加害者、女性が被害者」という構図だけでなく、男性が被害者となるセクハラもあります。

また、「加害者、被害者ともに男性」、「加害者・被害者ともに女性」というパターンも対象になるのです。

セクハラとして認められる労働者の「被害」とは?

セクハラは被害内容によって「対価型」「環境型」に分かれます。

対価型・・・セクハラ行為に対して拒否や抵抗したために、解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否などの不利益な扱いを受けること。
環境型・・・セクハラ行為のせいで労働環境が悪くなり、仕事が手につかなくなったり、業務に専念できないような状態になること。

このいずれの被害を受けていても、セクハラの被害として認められます。

職場のセクハラ被害を告発して請求できる慰謝料の金額とは?


セクハラ被害の告発によって、自動的に慰謝料を請求できるわけではありませんが、セクハラ被害によって精神的損害を被った場合には、加害者に対して慰謝料の支払いを求めることができます。

また、会社はセクハラ被害を防止すべき義務を負っているので、会社の業務に関連してセクハラ行為が行われていた場合には、会社も法的責任を負うのです。

ここからはセクハラ被害を受けた時の慰謝料の相場や、慰謝料を求める具体的な手順を解説します。

セクハラ被害の慰謝料の相場は数万円~数十万円程度

慰謝料とは、被害者の精神的苦痛をプラスマイナスゼロの状態に回復する目的で支払われるものです。

仮にセクハラ被害が認められたとしても、「セクハラの程度」、「セクハラが続いた期間」、「加害者の社内の立場」、「精神的苦痛の程度」などの要素を考慮し、一般的には数万円~数十万円程度が慰謝料の相場と考えられます。

近年では、セクハラ被害が極端に悪質なケースでは慰謝料も高額化していますが、全体的にはそれほど高くありません。

慰謝料はセクハラ加害者を懲らしめる目的のものではありませんが、会社ともども訴えられ、セクハラ被害に対する賠償金を請求される事実は、加害者にとって大きな打撃となるはずです。

慰謝料を求めるにはまず弁護士に依頼

まずは労働問題やセクハラ問題に精力的に取り組んでいる弁護士に依頼することをお薦めします。

そして、カギとなるのはセクハラ被害の証拠です。

もし訴訟になった場合、裁判所はあなたのことも加害者のこともまったく知りませんから、提出された証拠をもとにセクハラ被害があったの
か、どのようなセクハラ被害があったのかを判断します。

したがって、客観的な証拠がなければ、セクハラ被害の訴訟も厳しくなります。

早い段階からセクハラ被害の証拠を揃えることを心掛けてください。具体的なセクハラ被害の証拠を残す方法は先述の「セクハラの証拠を残す方法」を参考にしてくださいね。

職場のセクハラは会社に実名で告発するのが得策


セクハラ被害者の著名人がセクハラ加害者の実名を公表した「#MeToo」に対しては、賛同の意を示すのが目的だと考えるべきでしょう。

「一般人も声を上げ、セクハラ加害者の実名を公表すべき」という趣旨で理解するのは危険です。

もちろん、セクハラ被害に対して、泣き寝入りする必要はありません。

しかし、加害者の実名投稿というリスクを冒してまで「#MeToo」の投稿をするのではなく、会社や行政機関を利用して、適正な手順でセクハラ被害を解決するアクションを起こすことをお薦めします。

《参考》
「職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です」厚生労働省 都道府県労働局雇用均等室

《編集:安藤美和子》
アンチエイジングの神様の管理人。雑誌・WEBメディアの執筆・編集を行う。


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