水素水は嘘?ホント?科学者同士の水素水論戦を素人向けに戦況レポート
[公開日]2016/10/06[更新日]2019/01/25
飲料水メーカーにて水質分析官として勤務後、アンチエイジングの神様にて健康ジャンルの企画編集を担当。
突然ですが「水素水」って、関心ありますか?
実はこの水素水について、専門家同士の「嘘じゃないのか論争」が、現在ものすごく白熱しています。本当、ヤケドしそうなくらい熱いです。
結論からお伝えすると、水素水そのものは嘘でもインチキでもありません。しかし、水素水に関する広告宣伝にはまだまだ問題があるようです。
この記事では賛否両論の水素水について、消費者視点で突っ込んで、専門家がどんな激論を交わしているのか、素人でもわかるように説明します。やっと、水素水について本当のことがわかりますよ。
水素水の基礎知識
水素水は健康効果を謳うような表示をしてはいけない
2016年12月、国民生活センターが一部の水素水メーカーで、水素水に健康効果あるようにうたっている表示があるとし、各メーカーに表示を改善するように求め、消費者庁に対しても業者に指導をするように要請をしたというニュースが報じられました。
実際に独立行政法人国民生活センターのウェブサイトでは、水素水に対するテストや、事業者へのアンケート等を行った結果が公表されています。事業者への要望に加え、消費者への要望、行政への要望など詳細に記載されています。
行政への要望
販売元等のホームページや直販サイト、商品のパッケージに、飲用により健康保持増進効果等があると受け取れる記載がありました。医薬品医療機器等法や健康増進法、景品表示法に抵触するおそれがありますので、事業者に対し、表示の改善を指導するよう要望します。
水素水の各種製品について「正しい表示をすべき」という批判は今に始まったことではなく、以前から指摘され続けていました。
水素水って、どんな水?
水素水とは、水の中に水素ガスを含ませている水です。健康効果の真偽についての議論が活発に行われたり、パッケージや広告の表示方法についてなどで、たびたび注目を集めています。
水素水自体の健康効果は認められておらず、水素水を販売する際には健康効果を一切謳ってはいけません。
なぜ水素に注目が集まったの?
水素の健康効果に関して、基本となるのは太田成男教授の研究です。
きっかけは、2007年5月、日本医科大学大学院医学研究科加齢科学系専攻細胞生物科学分野の太田成男教授による「水素の健康効果」についての研究成果がアメリカの医学誌『ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)』に掲載されたことから始まります。
「老化や病気の悪化に関係する活性酸素が水素によって除去された」ことが確認され、今後、水素がさまざまな病気の予防や治療に活用できると期待がもたれる」とマスコミも大きく報じ、国内でも一大トピックとなりました。
出典:「いきいき水素水生活 水素水の正しい飲み方・選び方」植村成
この研究が発端となり、水素への注目が一気に加速しました。
その後、水素の研究についての論争は加熱
現在「水素によって人体の活性酸素を取り除くことができるのか?」というテーマの研究は途中段階で結論が出ていません。水素水研究の第一人者の太田成男教授は、このように説明されています。
水素を飲むと10分くらいで身体に吸収されます。そして余分な水素は、水素ガスとして1時間くらいかけて呼気から排出されます。水素は「拡散」によって体内に入るのですが、原理はおでんに味が浸み込んでいくのと同じです。血液にも溶け込みますので、水素は全身を循環します。
出典:「水素水とサビない身体」太田成男
また、水素を体内に取り込む方法として水素風呂で皮膚から吸収させるという方法もあるのだそうです。
マグネシウムをベースにした新しい水素発生素材が入った「水素入浴剤」が発売されていて、これをお風呂の中に入れて入浴すると、7分ぐらいで身体中に水素が行きわたります。水素分子は小さいので、皮膚を通り抜けて身体に入っていきます。その結果、血流が良くなって、身体が芯から温まります。
出典:水素水とサビない身体(太田成男)
水素水って嘘なの?インチキなの?
水素水そのものは嘘でもインチキでもありません。
しかし、問題のある業者はまだまだ存在しているようです。
水素水については、批判が多く出ているのが現状です。
ただ「良くわかっていないけど、何となく批判」というようなネット上の記事も多く、何を信じれば良いのか大変分かりづらい状況にあります。
ここで水素水論争を整理します。批判の種類は大きく分けて2つあります。
・テスト対象銘柄の広告に記載されている「ヒドロキシラジカル抑制率」は、飲用による効果を表したものではありません。人体への効果と関連付けて考えないようにしましょう。
・ヒドロキシラジカル消去能の公的な評価方法や表示方法に関する基準はなく、試験方法や条件によって、大きくも小さくもなる数値が用いられていることがあります。広告中の数値に惑わされないようにしましょう。出典:独立行政法人国民生活センター「活性酸素の一種を抑制する水をつくるとうたった装置-飲用による効果を表したものではありません-」
この「ヒドロキシラジカル」(ちなみに正しくは「ヒドロキシルラジカル」)が先述の「悪玉活性酸素」を意味するものです。
この悪玉活性酸素を取れるかのように表記され、人体に影響があるかのように広告されたので、注意が入ったわけですね。
東京新聞の記事には水素水メーカーの説明が掲載されました。
各企業は批判にどう答えるか。伊藤園の広報担当者は「言葉の切り取り方次第で商品の意図がゆがんでしまう恐れがあるので、コメントは避けたい。自社のHPで説明している。」とした。
(中略)
中京医薬品の営業担当者も「医薬品ではない」と認めた。うたい文句の「カラダの中からキレイに」は、水素水がカラダの中からキレイにしてくれるとの意味に受け取れるのではないかと聞くと、「そういう趣旨ではない」。水素水が通常の水より優れている点はあるかとの問いには「特には・・・。一般の水と変わらない」と回答した。
出典:東京新聞2016年5月30日朝刊
しかし、メーカーはこう答えるしかないのは当然です。現在、水素水は研究途中の水なので、一切健康効果を語ることはできないからです。
ある種、新聞社はそれを重々承知の上で、コメント欲しさにあえて答えさせたのかな、という気がします。
加えて、記事には水素水の効果に疑念を抱く識者のコメントを掲載しています。
左巻教授は「活性酸素は悪さをするばかりでなく、体外から侵入する細菌やウイルスを防御する良い役割もある。そもそも水素は大腸でも発生し、おならの10~20%を占め、外に出ないで体内にも吸収される。これは水素水から摂取する量よりはるかに多い。人間に効果があるかどうかは、大規模な調査を待ったほうが良い」と指摘する。
(中略)
天羽優子・山形大准教授(科学物理)は、伊藤園などの水素水について「慎重な宣伝文句にとどまっている。医薬品でもないし、健康への積極的な効能をうたえない程度の水だということ。治療効果など、水素の抗酸化作用については研究途上で、商品化は勇み足」と断じた上で、消費者の自覚を促す。
出典:東京新聞2016年5月30日朝刊
この論点については、研究途上なので、議論の真っ最中です。肯定派と否定派の意見を紹介します。
「水素水はニセ科学だ!」という批判について
2016年5月、産経ニュースが水素水は疑似科学であると結論づけているとして、明治大情報コミュニケーション学部の石川幹人教授のコメントを紹介し、大きな話題を呼びました。
『なぜ疑似科学が社会を動かすのか』(PHP新書)の著書もある石川教授は、「今話題の水素水の多くは、電解還元水のことで、かつてアルカリイオン水と呼ばれたもの」と指摘。水素水の評定をしたことについて、「キャッチーな『水素』という言葉をつけることで、売り上げを回復しようという意図が見えたから」と説明する。
実際に、今回の太田成男教授の研究とは無関係の水素水まがいが多く発売されています。
この石川幹人教授のコメントは一部の業者の「インチキ水素水」の話であり、太田成男教授の水素水の研究のことではありません。
この石川幹人教授の報道は、水素水論争を一気に加熱させました。日本水素水振興協会は公式サイトで以下のようにコメントしました。
石川幹人教授の論評に対して、ある教授は以下のようなコメントを出しています。
「石川幹人教授の論評の内容は、まったく不勉強極まりなく問題外なのですが、水素水で世界をリードしている日本にとっても大変残念に思います。特に、石川教授の水素の副作用についてのコメントは、生命の誕生について全く知識がないということを表しています。直流の昔の電気分解だけの知識だけなので、もうちょっと勉強していただきたいと思わずにはいられません」。
かなり強い論調で石川幹人教授を批判しています。おお、白熱していますね・・・。
「インチキ水素水」がややこしくしている水素水論争の現状
太田成男教授の研究をうまいこと利用して売り上げを伸ばそうとする「インチキ水素水」。これが厄介な存在で、このインチキ水素水の批判がそっくりそのまま太田成男教授の水素水の研究への批判として報じられたり、議論されてしまうケースが多々あります。
太田成男教授は自身のサイトでこのように注意書きを書いています。
注意!!活性水素、マイナス水素イオン、プラズマ水素、水素吸蔵サンゴ、水素吸蔵ゼオライト、と記載されているものや、「水素水」と称したペットボトルの水は、分子状水素、水素ガス、水素水とは別物で 私の研究成果とは全く無関係です。 消費者の方は、インチキ商品に注意しましょう。
さも健康効果があるように見せるのはどうなのか?
しかし、一方で太田成男教授が自身の研究成果に基づいた水素水製品については認めているのも事実です。そうした点については、先述のように「研究途中なのに、健康効果があるように見せるのは時期尚早では?」という批判が存在します。
公益財団法人食の安全・安心財団理事長・唐木英明(東大名誉教授)さんは産経新聞の記事の中で、水素水について「研究自体はまじめな科学であり、私自身、水素水による治療研究をニセ科学と考えたことはない」と、太田成男教授の研究を認めた上で、以下のようにコメントしています。
水素水が健康食品としての効能を示すことを示した「健康な成人での臨床試験」はあるのだろうか?現在のところ、予備的な研究はあるものの、健康食品としての効能を示すような確実な研究結果はない。だから、トクホあるいは機能性表示食品としての水素水は存在しない。科学的根拠なしに効能があるような宣伝を行えばこれは明らかなニセ科学であるだけでなく、処罰の対象になる。
批判は「現在は科学的根拠があると言えない状況なのに効能があるように言うのは止めようよ」といったものです。
それを水素水を推し進めようとする肯定派は「健康効果を証明する論文は世界中で出ている!それを否定するのか!」といった具合で、議論は平行線です。今もまさに火花を散らすような議論が続いている状態です。
白熱する水素水論争!水素水の効果への疑問と反論
水素水の効果を宣伝すべきでないという批判があることは紹介しました。水素水の効果についての議論も活発に行われています。こちらも肯定派と否定派の意見を紹介し、噛み砕いて解説します。
「もともと体内で自ら水素を作るので無意味」という批判
水素水の中の水素は微量で体内で生成する水素よりもはるかに少なく、飲んでも健康に影響しないという批判です。
あまり知られていないかもしれませんが、実は、私たちの体内では日々水素が多量につくられています。大腸には水素産生菌がいて、水素を産生しているのです。(中略)これは、水素水から摂取する水素と比べてはるかに多量です。筆者は、その研究などの進展も見守ろうという立場です。ヒトの大規模な臨床試験で問題がなく、効果があるという結果が出るまで、水素水には手を出さない方が良いと思います。
出典:左巻健男「水の常識ウソホント77」
この左巻健男教授の意見にも、太田成男教授が反対意見を寄せています。
水素水を飲むと水素は胃に入ります。胃からはグレリンというホルモンが分泌され、脳神経保護に働くことが知られています。水素水を飲むと、胃の水素濃度が高くなり、胃からグレリンが分泌されることが発見されました。このグレリンは血流にのって脳へ到達し、脳を護るということになります。この場合は、腸内細菌から発生される水素はあまり関係ないと考えられます。
(中略)
もう一つの重要な研究は名古屋大学で行われました。(中略)この研究では、体内の全体の水素量よりも、水素濃度の変化が大切だと結論しています。そのため、水素水の飲用は腸内細菌から発生する水素よりも効果的なのです。
また、腸内細菌を遺伝子操作で水素をつくれないようにして、腸内細菌から発生させる水素と飲用した水素の効果を調べた研究があります。腸内細菌から発せられる水素は炎症を抑制する効果が確かにありました。しかし、水素水を飲ませた方が、炎症を抑制する効果は強かったのです。
(中略)
このように腸内細菌が発生する水素にも効果がありますが、水素水を飲んだ方が効果的である事が証明されているのです。
胃に水素が運ばれることの意味と、体内の水素濃度を変化させることの意味についての研究の成果を挙げて、反論しています。
水素水の効果は「気のせいだ」という批判
水素水には事実、喜んでいるお客さんが存在しますが、そんな口コミにも反論が寄せられています。「それは気のせいだ」という、厳しい批判です。
「"水素水が効いた"と仰る方のほとんどは思い込み、プラシーボ効果だと思います」(左巻健男教授)
「プラシーボ効果だけでなく、それまで砂糖入りのコーヒーやジュースを飲んでいた人が水素水に替えたことでダイエットに繋がったり、適度な水分を補給するようになってお通じが良くなり、肌がきれいになったというケースもあるかもしれない。ただ、それは水を飲む習慣がついただけ。水素水は中高年の健康不安につけ込んだ風評ビジネスと呼ぶべきだと思います」(天羽優子准教授)
プラシーボ効果とは、ニセモノの薬を飲んでも、薬だと信じることで、何らかの改善がみられる事を言います。思い込みか、それによる偽薬効果だと批判しているわけですね。
確かに天羽准教授がおっしゃるように、これまで水分補給する習慣がなかった人が、水素水でも水道水でも何でも良いので、水を飲む習慣がつけば、体調改善するということは大いにあり得ると思います。水分不足が解消するわけですからね。筆者もそうした経験はあります。
しかし、この批判にも、太田成男教授は自身のサイトで反論されています。
高血圧の患者さんの何人かから「水素水を飲んでいると血圧が下がった」と医師が言われたそうです。「気のせいではないか?」「プラセボ効果ではないか?」と思ったのですが、何人も言うので「では、動物実験で調べてみよう」と、高血圧マウスを作り出し、水素ガスを吸わせたというのです。すると、確かに高血圧マウスの血圧が下がったのです。この動物実験から「高血圧の患者さんの血圧が水素水で下がったのは、プラセボ効果ではない」と結論しました。動物には「気のせい」ということがないので、確実な結果が出せるのです。
動物実験でも結果が出たので、気のせいではないという反論です。
消費者は水素水と冷静に向き合うことが大切
水素水の健康効果の是非については、今もなお大激論が続いているところです。ただ、忘れてはいけないのは、水素水については効果効能を一切謳ってはいけない状況にあるということです。
なぜ国や公的機関が認めていないのかというと、研究成果が足りない、根拠が足りないからです。
科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体「フーコム」のライターさんの記事ではこのように書かれていました。
太田教授らの言う"水素水"であっても、まだエビデンスというにはほど遠い(もっとも、たった一つの小規模な臨床試験の結果を根拠に、機能性表示ができる昨今ではありますが…)。もっと根拠を積み上げて、堂々と医薬品や保健機能食品として販売にこぎ着けるのが、まっとうな科学の姿だと私は思います。
今は水素水が「なんとなく良いんだろうな」という消費者のイメージにつけ込む業者が増えているので、おかしなことになってしまっています。
消費者側も水素水はまだ国に健康効果が認められていない、という事実を冷静に捉えることが大切です。今後も明らかな健康効果を謳っている水素水関連商品にはご注意ください。